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公開セミナー 第41回 名作の舞台裏 土曜ドラマ「64(ロクヨン)」覚え書き(2016年6月19日)

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2016年6月19日(日)横浜・情文ホールで行われた、放送人の会・放送番組センター共催の公開セミナー第41回名作の舞台裏 土曜ドラマ「64(ロクヨン)」の覚え書きです。

 

200人の枠に1000人以上の応募があったとのことで、抽選に当たったのは幸運でした。

 

発言の趣旨は外していないと思いますが、言葉や言い回しは実際に話されたものと違います。公開セミナーの全ては記録できていません。ツイートにするつもりだったので文章もあまり整えていません。読みづらい部分はご容赦ください。

 

※ドラマの内容に触れています。

 

公開セミナーは、前半がドラマ版64(ロクヨン)の第1話の上映。後半がトークセッションでした。

 

ゲストは、ピエール瀧さん(主演)、大森寿美男さん(脚本)、屋敷陽太郎さん(制作)、井上剛さん(演出)。司会は、渡辺紘史さん(放送人の会)でした。

 

まず司会の渡辺さんの、ゲストの方々が昭和64年ごろ何をしていたか、という前フリから始まり本題へ。


4人の方はほぼ同年代(1967~1970年生まれ)で、昭和64年ごろは、
井上さん「男ばかりだった高校から、大学の文学部という女性ばかりのところへ移って、志を見失っていたころ」
ピエール瀧さん「インディーズで電気グルーヴを結成したころ」
大森さん唐十郎さんなどの演劇を見て、自分でも作っていたころで、歌舞音曲の自粛が気にはなっていた」
屋敷さん「受験勉強ばかりのころ」
というようなお答えだったと思います。
皆さんに共通していたのは、バブルだったけれど蚊帳の外にいた、ということでした。

 

渡辺さん。そういう昭和64年頃を過ごした4人が集まって描いた「64(ロクヨン)」だと。

 

屋敷さん。「64(ロクヨン)」は小説発売前に読ませていただいた。面白くて夜通し読んで、クライマーズハイの時の大森さん(脚本)井上さん(演出)を誘って、ドラマ化したいと申し込んだ。

 

映像化はNHKが最初に許可をもらって、それから映画。撮影は1、2ヶ月ぐらいの違いでほぼ同時期だった。映画は4人ともまだ見ていないとのこと。

 

ピエール瀧さんは、映画を見てしまうとこの公開セミナーで話すとき三上像が佐藤浩市さんに寄ってしまいそうなので終わってからにしようと思った、と笑わせていました。

 

ピエール瀧さんの起用は井上さんの強い推薦。屋敷さんはセリフを話している瀧さんをあまり見たことがなかったのでツタヤで瀧さんの出演作を全部借りて見た。「おじいさん先生」を見て、いけると。

 

屋敷さん。井上さんから、主演はソン・ガンホピエール瀧だと言われた。ソン・ガンホに日本語を習ってもらうか、ピエール瀧かだと。

 

ドラマ化するにあたって構成をどうするか。屋敷さん。井上さんから難しい原作だと言われた。読み終わって前半の重要さが分かるような本だから、そのままでは前半がどうかなと。

 

大森さん。横山さんの原作は一読してこういうドラマになるとイメージできる。それがウケるかどうかは別にして、原作の魅力は表現できると思えたから書くときに迷いは無かった。

 

原作の情報量をどうドラマにしようかと考えた時に、三上に張り付いて彼が体験する事をドキュメントのように書こうと。三上が知らないことは描かない。三上と同時進行で、見ている人に、悩み、感じてもらおうという構成にした。

 

井上さん。大森さんは書く前からモノローグはやりませんと。モノローグをやると、分かった人が振り返って話していることになってしまうので。

 

大森さん。三上は受身の人。自分からは動かない。ふりかかってきたことに対処していく。三上を活躍させようと意識すると構成が破綻してしまう。

 

ピエール瀧さん。NHKで、警察モノ、人間模様、それで主演がピエール瀧。どうかしてる。セリフの量がすごい。ほぼ全シーンに出てる。出来るのか?!と、でかい組織に巻き込まれて翻弄されているのがドラマの三上とリンクした。

 

主役といっても自分の作品とは思わない。作品はこの人たち(他の3人)のもの。主演というのはそのお手伝いの分量が多い人。目立つので損な役回りではある。賞を取りましたと言ってもトロフィーさえ見たことがない(笑)

 

ただ主役が面白いのは情報が集まる事。脇役は現場に入って紹介されて、撮って、花束もらって、はい帰ってください。それでメイキングのカメラが来て「この現場どうでした?」わかるわけないだろ(笑)。主役はすべてに関われるので面白いと思った。

 

演出として。井上さん。同じようなスタッフでやったクライマーズハイが、自分たちが次のステージに進めた作品だったので、今回も一人ひとりが高められるようなものをと。これまで培ったものを全部放り込めという勢いだった。

 

屋敷さん。井上の特徴は非常にドキュメンタリーっぽく撮ること。あるシーンがあったら、そのずっと前から、終わったあとまでカメラを回す。署内なら、俳優は台本上で使う部分のずっと前から普通に仕事していて、終わってからも台本にない芝居を続けないといけない。それが毎回なので大変。

 

瀧さん。井上さんの演出はどうかしてる(笑)。廊下から広報室のドアを入るだけのシーン。セットも組んでないところから百メートルも歩いてこさせられる。

 

今日見た1話だと、夫婦で女の子の遺体を確認に行くところ。車が警察に着く30分前からカメラ回ってる。木村佳乃さんと二人で不安な親の気分になりきって雪山見ながら車に揺られてた。

 

基本的に前後に「のりしろ」が付いた1シーンを5カメで5セットやる。間違えたときは役者が自主的に少し前に戻してやり直す。カットは掛からないから。

 

5セット毎回カメラ位置が違うので、役者にとっては「正面」が無い。だからなりきった芝居をするしかなくなる。他のカメラが見切れたりするけど、見切れ上等だと。それを編集で料理する。だから最初からこうなると分かって撮ってないですよ。(井上さんが横から「いや分かってる」と言って爆笑が)

 

屋敷さん。スポーツ中継みたいな部分も。井上がインカムに指示を叫ぶ。面白かったのは、橋から段田安則さんがトランクを投げるシーン。井上が車の排気ガスが気になって「排気ガス!」ってやったから、みんなそれぞれ芝居してるのに、全部のカメラが排気ガス撮ってた。

 

ピエール瀧さん。トランク投げるシーンは寒くて、でものりしろ付きで5セットやる。最後、真っ青な顔した段田さんが「こんなに要る?」って。

 

ピエール瀧さん。でものりしろは俳優の助走の時間という意味もあって、言い合いの場面とか、ヨーイハイでそのテンションになれない場合がある。だからシーンの頭からトップギアの芝居を使うための井上さんのテクニック。でも絶対要らないと思うところもあった(笑)

 

井上さん。台本のセリフとト書き読んで、面白いと思って、それをそのままやれば面白く出来上がると思われるかもしれないけど、そうはならない。その時の天気や環境やいろいろなものに影響されてシーンの印象が変わってしまう。

 

台本読んだとき一番重要だと思っていたセリフも、実際に人がしゃべったら、その前や後のセリフのほうが大事だったんだと現場で気づかされることも多い。そうなるとどれだけ現場を豊かに出来るかが大事になる。

 

それは俳優に対するのりしろの話にもなるけれど、それはスタッフにも同じ。30分前から回す話もそうだけど、警察署に車が着いたらそのまま自然と始まる。段取りでやると「ここに来るんでしょ」となるけど、僕はテストをしないからどこに来るかわからない。カメラマンも緊張する。その新鮮さをキープするためにやってる。

 

会社に入ったころは、偉いカメラマンだと、フレーム決めて俳優にここに入ってくださいなんて指示があったけど、それは面白くないなと思っていたのが僕らの世代。先輩から学んできているけど自分の方法論も作らないといけないと思って、5セットになったと(笑)

 

屋敷さん。5セットと言っても井上は同じポジションからは絶対撮らない。

 

瀧さん。驚いたのが、洗面所のシーンで、水が流れる排水のところにGoPro(小さいカメラ)が付いてて、この絵いつ使うんだろうって(笑)

 

井上さん。カメラポジションも、芝居も、毎回違う。だからつながりは大雑把。食べてるものが違ったり。立ってた人が座ってたり。

 

渡辺さん。なぜそこまでこだわり、もっと良い芝居が、もっと良い絵があるんじゃないかと追求するか。

 

瀧さん。でも、時間とお金が許せば誰でもやりたいんじゃないですか。何回もやるのは、やらされてるというよりは、もう1回やりましょう!という感じ。

 

渡辺さん。台本には普段使わないような言葉もあったが苦心は。

 

瀧さん。「けどられないようにしろ」とか使います?「木で鼻をくくる」とか。でも記者の秋川とか嫌な若造ですけど「木で鼻をくくる」を使うことで、学があるというか、ただ嫌なことを言ってきてるのではなく何か腹があってやってるんだなという感じが出る。

 

大森さん。警察官なので堅苦しい言葉が普通に出てくる人たちだから、あまりくだけたセリフにして開けっ広げな感じにするのは違うなと。秋川にしても言葉は武装であって、本音ではなく立場としてやっているんだということ。

 

音、音楽について。井上さん。音楽はクライマーズハイもやってもらった大友良英さんで、ロクヨンも文字でしか読んでなかったはずだけど世界観をわかってもらえている。一度だけ群馬に来ていただいて、今回は北関東のからからに乾いた感じにしてくださいとお願いした。

 

録音も、NHKのスタジオは最新鋭過ぎていかにも劇伴になるので、アナログな味のあるスタジオで録った。そうするとザラザラした感じになって、効果音と同化するような味わいに。

 

屋敷さん。井上がドキュメンタリーチックに撮るのがわからないでもないと思うのは、ここまでドラマをやってくると、言い方は悪いがフィクションに飽きてくる。小説も読まなくなってノンフィクションへ寄っていた。ドラマを見ても撮影大変そうだとか、弁当いくつ必要だったのかなとか(笑)。今回のロクヨンではドラマづくりの原点に帰った感じで楽しい経験だった。

 

井上さん。同じような事だけど、初心に帰るというか、こういう脚本が来てしまうと背筋を伸ばさなくてはいけなくなる。スタッフ含めて「しっかりドラマ作らないとな」と、気持ちがリセットされた。本当に真摯に作った作品。もう少し視聴率が行けばよかったなと(笑)悔しいなと。

 

瀧さん。第1話を見せてもらってこれはすごいドラマだと。その後視聴率が振るわなかったと聞いて、僕が至らないせいもあるけど、「みんなこれ見なくていいのかな?大丈夫?」と思った作品だった。

 

井上さん。作り手からすると、自分たちが見ている側とズレていってるのかなと。

 

渡辺さん。ズレていってるのではなくて、見るほうの辛抱強さ、見ようという思いの強さが薄れている。寝そべって楽しめるほうがいいやと思っているから緊張を強いられる作品から逃げてしまう。でもドラマの将来を考えれば、それを作り続けて「きちんと見なきゃいけないものもある」と伝えるチャレンジをする必要がある。

 

質問。広報室のキャスティングについて?

 

屋敷さん。キャスティングは無名有名を問わずこだわってご一緒したい人にお願いした。記者にとても体格のいい男性がいるが、彼はクライマーズハイのオーディションで出会って、その時は役が無かったけど今回やれたりとか、それぞれこだわりのキャスティング

 

瀧さん。新井浩文くんは飲み仲間・マージャン仲間で仲がいい。共演は初めてで、ついに実現した。井上さんの演出が、広報室では三上のデスクを一番奥にして、若手との距離があって少し浮いてる感じをうまく出せた。

 

屋敷さん。山本美月さんのキャスティングでは映画の試写を見たが、井上が見に行って「言葉を失うほど可愛い」と帰ってきたのを覚えている(笑)

 

瀧さん。2話の雨のシーン。絶対この子俺のこと好きだわ、って(笑)

 

井上さん。延々とそのこと言うから現場で不愉快になった(笑)

 

質問。井上さんの演出が好きで昨日終わった「トットてれび」も感動しました。ピエール瀧さんも出ていて。今まで震災に関する作品(その街のこどもあまちゃん)を撮られていて、熊本出身ということで今回の地震はどう思いましたか。それと井上さんの弟子になるにはどうすればいいですか。

 

井上さん。地震の時は「トットてれび」が佳境で。コメディで明日現場で笑いをやらなきゃいけないのに。現場の雰囲気は作品に出る。楽しければ楽しくなる。あの時はお笑いを考えられなかったのがしんどかった。被災地には駆けつけられないし。

 

屋敷さん。井上の弟子は大変だと思う。「トットてれび」で井上の下についた女性が休んでるのここ数ヶ月見てない。すごい調べ物するので、たぶん彼女は日本のテレビ史に今一番詳しい。

 

瀧さん。ブラック企業みたいなもんです(笑)

 

質問。ピエール瀧さんが、字がまる文字で三上のイメージが崩れるから写してほしくないと言っていたとラジオで聴いた。

 

瀧さん。日吉に大事な手紙を書くシーンがあるが、まる文字なのでとても緊張感を削ぐ。見た人もずっこけるから、と井上さんに言ったけど「それがリアルっすから」と。ちらちら写る娘の捜索願も自分で書いている。

 

瀧さん。はじめてこんなまる文字の手紙が来たから日吉の心が溶けたのかなとか(笑)

 

その他、群馬という土地についての質疑などがあって終了しました。

 

 

それからのこれからの仕事の紹介もありました。

 

屋敷さん。真田丸で精一杯です。隣で森田屋さん(朝ドラ「とと姉ちゃん」のピエール瀧さん)がやってます」。

 

渡辺さん。森田屋さんは退場したけど戻ってくるんでしょ?

 

ピエール瀧さん。さあ~どうでしょうか~(笑)。あと映画「日本で一番悪い奴ら」面白いです。そのあとは夏フェスでフジロックのほうに。日本人初のクロージングを頑張ります。

 

井上さん。「決まってないです」

 

大森さん。「あまり知られてないかも知れませんが「精霊の守り人」というドラマを…」と自虐的に話し始めて、知ってますよ!とツッコミと拍手が。
「この作品もロクヨンと同じで、皆さんを見たこともないような世界に連れて行きたいと思っています。作り手も何かを越えていきたいと思っています。僕らの志と一緒に作品を応援していただければ」

 


ロクヨンチームの信頼関係がよくわかる楽しい雰囲気のトークセッションでした。

(おわり)